SOMEONE's diary

思ったことを備忘録として

彼の料理に一番のスパイスは

わたしには大好きなシェフがいて。シェフは男性なのだけれど。

 

この好きという感情は難しく、恋人になりという気持ちの類ではなく、心の中にある「何か」な感情であることだけが唯一の事実なんだけれど。

 

わたしたちは、仲がいいと思う。根底で同じ思想を共有しているという確信はあるし、言いたいことを言わなくても理解できると、お互いが心の中で信じている。

 

わたしたちは、ただはっきりと、わたしたちは同じ側にいる人間で、同じような経験をしてきた人間であることを、そのことだけを無意識に共有している。それは、ほんの些細な瞬間だけれども、目があった時や肩が触れ合う時、その時の微笑みでわかるんだけれども。

 

わたしたちは同じ側の人間であるはずなんだけれど、同じ人生は歩んでいないし、同じ環境に身を置いているわけでもない。そんなもどかしさ、振り返ると不思議な感覚を持っていたことは事実だった。

 

ある夜、彼のレストランに行ったとき、よくあることだけれど常連しかいなくて、カウンターの向こうに立つ彼は、とても同じ側の人間ではなく、そこには彼という主体が存在していた。

 

ふと、純粋に、心から、口を突いて出てきた言葉は、ああ、そうか、羨ましい。同じ側の人間だけれども、私が欲しい何か、それは往々として人との深い繋がりで合ったりするのだけれど、表層は注目と称されるもの。それを持っている。誰しもが彼の名前を呼び、彼の話をし、彼を気に掛ける。

 

わたしの心の「何か」の感情を理解した。

 

それは、憧れ、よりも嫉妬。

 

ああ、私たちはやはり同じ側の人間だ。

 

自分が中心にいないと気が済まない。

 

カウンター越しに微笑む彼は少し驚いた顔でわたしを見て、わたしはクスッと笑ってしまったけれど、少しの安堵と少しの嫉妬をスパイスに、今日もわたしは彼の料理を食べるのだ。